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鈴木革 21世紀 アレクサンドロスの旅

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2019年 08月 23日

バラの谷とトラキア人の墓(世界遺産) ブルガリア


トラキア討伐のため、フィリピから北進したアレクサンドロス大王は、『メスタ川を渡った』と短い記録が残っています。
メスタ川はブルガリアのリラ山地から発し、ギリシアを流れてエーゲ海に注いでいます。
しかしマケドニア軍の足跡は特定できず、メスタ川の渡河地点は不明です。

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バラの谷 カザンラク市郊外のバルカン山脈とトラキア墓群

史料ではマケドニアを出発して10日後に、大王とその軍はバルカン山脈にたどり着いたとあります。
バルカン山脈はブルガリア中央部を東西530kmに連なり、国土の南北を分断する大山塊です。
やはり通過点は特定されていませんが、南麓には有名な「バラの谷」があり、トラキアの墳墓が残っていますので訪れてみました。

バラの谷とトラキア人の墓(世界遺産) ブルガリア_a0203308_09112799.jpg
トラキア地方は、ほぼ現在のブルガリア。赤印左がテッサロニキ、
右端がイスタンブール。紫印下方が既述のフィリピ遺跡、中央がカザンラク市

ブルガリアの観光案内に必ず登場するのが「バラの谷」です。
中央バルカン山脈の南には平行して細長い谷間があり、世界的な香料用バラの産地になっています。
もっともバラ栽培が始まったのはオスマントルコの時代で、大王が香りを楽しんだわけではありません。
しかし付近にはトラキア王墓が点在しており、特に中心地カザンラクの墳墓は世界遺産に登録されています。
この墓は壁画で有名ですが、狭い墓室内に大勢が入ると壁画が劣化するため、オリジナルを模造した見学用のレプリカ墓が博物館になっています。
確かに館内には訪問客が多く、この人数が墓室に入れば壁画への悪影響は必須です。

バラの谷とトラキア人の墓(世界遺産) ブルガリア_a0203308_17480995.jpg
前出のカザンラク郊外のトラキア墓内部
こちらは世界遺産ではないが、もちろんオリジナル

墓室はドーム天井になっており見事な壁画に覆われています。
しかし劣化対策のためにコーティングデモされたのでしょうか、表面に反射があっていかにもレプリカという感じが免れません。
そこで思い切って係員に訊ねると、実は(2008年当時)特別料金でオリジナル墓も案内できるといわれました。
少し驚くほどの高額な料金を支払うと、係員が大きな鍵束を持ってオリジナル墓へと導いてくれました。

バラの谷とトラキア人の墓(世界遺産) ブルガリア_a0203308_17475766.jpg
カザンラク市内のトラキア墓(世界遺産)
これは観光用のレプリカ墓

レプリカ墓に隣接するオリジナル墓は、入口となる新設の地上部分が物置小屋のように建っているだけの外観です。
正面には頑丈な鉄扉があり、厳重に施錠されています。
案内人が鍵を開けている間、大いに期待が高まります。
そして案内された墓室は、当たり前ですがレプリカと同じ構造で同じ絵が描かれています。
しかしその絵の出来栄えが、あまりに違って思わずため息が出ます。

まず色の濃度が軽く爽やかで断然に明るいイメージです。
しかも色合いは鮮やかで、各色が際立っており、それぞれ説明ができない複雑な発色です。
名も知れぬ古代の天才画家の、秀で力量が展開しています。
もちろんレプリカ墓の訪問客も満足げでしたが、このオリジナルを見てしまうと、あまりの違いに驚くばかりです。
それは有名作品の原画と、印刷された複製との違いほどもあり、価値ある原画を間近で見るという経験に、高額の別料金にも出費にも納得しました。

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カザンラク市のバラの収穫風景 バルカン山脈が見える

マケドニアから蛮族とされたトラキア人ですが、こうして墳墓の造営やその芸術を見るに、机上では知りえない文化や歴史をあらためて知りました。


次はバルカン山脈を越えて

つづく







by kakusuzu | 2019-08-23 17:58 |


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